2008年香美市立美術館大坪美穂展リーフレットから |
知人に紹介された大坪美穂さんの海界 (うなさか)という個展を六本木ストライプハウスのギャラリーに見に行きました。ポストカードの写真の作品は黒く染められタグがつけられた衣類を着せた椅子が整然と並べられたものです。入り口入ってすぐ目に入りました。写真は作品の一面にしかすぎませんからこうして作品を前にしたときに感じることって大切だといつも思います。写真の硬質なイメージと違い衣類の柔らかい形や布の材質が黒一色に染めきらないニュアンスのある空間を作って饒舌です。饒舌ですが沈黙の重さのような空気が漂っています。在廊されていた大坪さんからアウシュビッツをイメージされているとお話を伺い'やっぱり!'と作家さんに共感を覚えました。布つながりで目を移すと2階にわかれた空間に2つの布玉のインスタレーションがあります。階下の作品は大小の布玉が中央に集められ周囲を大きなシルクスクリーンの作品が囲んでいます。吹き抜けの一階の作品は山積みの白い布玉から'こより'でできたネットが天井に向かって広がっています。私はこういう作品をみるときはできるだけ自分の位置を変えて見ます。見上げるよう作品は上から見れるよう配慮されていると嬉しいものです。インスタレーションは見る側に冒険を迫ってくるので楽しいです。
大坪さんはさりげなく布玉を作り始めるきっかけになった事件を話してくださいました。「長年支えてくださったお母様の死とアイルランドのヌーラニ ノゴールの詩との出会いがで母の衣類を裂き黒く染めて布玉に変えその時の海界を越えられた」。私自身の体験にもつながるお話です。母親という存在は「つながり」ということを生理的に伝える存在なのかもしれません。大坪さんの近年の作品づくりは布玉をいろいろな人達を巻き込んで作りつながりをイメージするこよりのネットとつなぐということです。招かれる地域で集まった人達を巻き込ん作品づくりをするということが今のテーマになっていると話されました。布玉もネットの広がりもその作品全体のイメージもそのときどきで変わって行くのでしょう。何か大きな船が大海原にこぎ出してゆくのを見送ったような気持ちでギャラリーを後にしました。
2008年香美市立美術館大坪美穂展リーフレットから |